2024年10月11日に開催されました第41回日本アドラー心理学会盛岡総会におきまして日本アドラー心理学会会長に就任しました梅﨑一郎と申します。
みなさま、どうぞよろしくお願いいたします。
40年に渡り、連綿と引き継がれた当学会の運営を担うにあたり、新会長としての所信をここに記したいと思います。
まず第1に、アドラーが人類の幸福を願い創始した個人心理学(アドラー心理学)の本質を学術的に、そして日常実践的に探求していくことです。このアドラー心理学の本質への探究という営みこそが、時代や状況の大きな変遷の渦中においてアドラー心理学の生命力を強く燃え上がらせることでしょう。
第2に、アドラー心理学の本質の探究が土台となって、現在の、そして未来の様々な課題に建設的に対応していける新たな方法を育成し、創造していくことです。当学会の子育て学習プログラム『EOLECT』 は、アドラーの言葉に深く立ち返る中から生み出されました。今後、EOLECTは多くの親子を勇気づけていくことでしょう。そして、新たな時代や状況に必要とされるアドラー心理学の方法を開発していきます。
第3に、現在の私たちとアドラーを繋ぎ、私たちのアドラー心理学の学びと実践を有形無形に支えてくれてきた先人たちの存在を感じ取り、先人の言葉と聲に静かに深く耳を傾けることです。2024年に放映されましたNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』のワンシーンに使われていたアドラー著『問題児の心理』(原題“The Education of Children”)は、高橋堆治氏が1941年に翻訳し出版されています。高橋堆治氏は戦前にアドラーの著作に触れ、何とアドラーと直接書簡で交流していたこと。さらには、尾高豊作氏の存在によってアドラーのこの著作の翻訳本の出版が実現していたという史実も明らかになりました。このように先人の存在とその言葉と聲に静かに耳を澄まし聴き取っていくことは、第一のところで述べたアドラー心理学の本質を探究する上で極めて重要な取り組みになると考えます。
第4に、日本における自助グループ活動を含めて、国内外の様々な団体や個人と縦横無尽に繋がりつつ、アドラー心理学の学びと実践のネットワークを育んでいくことが喫緊の課題となっています。現在アドラー心理学は日本のみならず韓国や台湾にも学会が設立されるなどアジア圏にも普及してきています。臨床心理学の分野の中においてはまだまだメジャーではありませんが、社会的な認知度は上がり、これまでにないほどに広範な領域で学ばれるようになってきています。インターネットやAIが普及進化することで、その広がりは加速度的な勢いを見せています。一方でこの勢いの弊害としてアドラー心理学の本質も見失われやすいというリスクも孕んでいます。だからこそ、自助グループ活動やさまざまな個人や団体と繋がることで、ネット上の情報だけではない地に足をつけた学びの重要性が必要だと考えます。
第5に、上記4つの取り組みを実現していく為に、現在の学会の組織体制を現実的で機能的なものに整えていくことです。会員のみなさまのお力を借りながら、無理がなく適切に効率的で機能的な学会運営が可能となる組織に育てていきたいと考えています。
以上5つの課題に真摯に取り組み、アドラー心理学の研究・啓発・実践活動がさらに推進され、より適切に内外に活動が展開できるよう尽力いたします。
これからもみなさまの御理解と御協力をいただけますようよろしくお願いいたします。
一般社団法人 日本アドラー心理学会
会長 梅﨑一郎